須崎市のご当地グルメ「鍋焼きラーメン」の魅力
「鍋焼き○○」と聞けば、多くの人が「うどん」を思い浮かべるでしょうが、高知県の須崎市には「鍋焼きラーメン」と呼ばれる一風変わったご当地グルメがあります。その名の通り、土鍋でグツグツと沸騰したまま提供されるラーメンですが、一体どんなルーツがあり、どんな特徴があるのでしょうか。今回はそんな須崎市の名物、「鍋焼きラーメン」をご紹介します。
戦後間もない須崎市の食堂で誕生
鍋焼きラーメンが誕生したのは、戦後間もない時代。当時、須崎市内で開業したばかりの「谷口食堂」が考案したといわれています。
「谷口食堂」では、ラーメンの出前も行っていたようですが、普通の丼に入れて運んでもお客さんの自宅に届く前に冷めてしまうことから、ホーロー鍋に入れて届けるようになります。これが、鍋焼きラーメンの始まりです。
出前するラーメンであっても、アツアツのまま食べてほしいという店主の“温かな”想いが込められた「谷口食堂」の鍋焼きラーメン。残念ながら1980年にご主人が亡くなられたため、お店は閉店してしまいましたが、熱狂的なファンがいたほどの人気の味を後世に残そうと、須崎市内の様々な飲食店が「谷口食堂」の鍋焼きラーメンを再現・アレンジしながら、提供するようになりました。
スープ、麺、具材はいたってシンプル
「鍋焼きラーメン」のスープは、親鳥の鶏ガラで取ったダシに醤油ダレを合わせるのが基本。一口すすれば、鶏の旨みがじんわりと口いっぱいに広がるほどにコク深く濃厚なはずなのに、どこかスッキリとしていて味に重みを感じさせません。ちなみにスープのベースに親鳥が使われるようになった理由は、発祥の「谷口食堂」の前に肉屋さんがあり、そこから無料でもらっていたからなんだそうです…
麺は細麺ストレート。「鍋で煮立ったままだとすぐに伸びてしまうのでは?」という疑問が湧きそうですが、テーブルに運ばれてお客さんが麺を口に運ぶまでの時間を計算しているのかと思うほど、絶妙な固さのままで提供されるので、麺が伸びるといった心配はありません。むしろ、コシが強く喉越しも抜群。鶏ガラ醤油スープとの相性も良く、まったく飽きを感じさせません。
スープと麺だけを説明すると、普通の醤油ラーメンが土鍋に入っているだけのようにも感じられますが、最も特徴的なのは具材です。チャーシューやメンマといった一般的なラーメンのような具材ではなく、基本的には、ちくわ、ねぎ、細切れにした親鳥の肉、それに生卵。
また、鍋焼きラーメンを注文すると必ずといっていいほど、たくあんがセットになっています。箸休めの意味合いがあり、少々お腹が膨れてきた途中でも、酸味の強いたくあんを一齧りするだけで不思議と食欲が回復します。
これらは、戦後間もない食糧難の時代に入手しやすかった食材であり、もちろんそのルーツは「谷口食堂」です。
スープと麺、それに具材を味わうだけでも、鍋焼きラーメンは充分に楽しめますが、ここから先が通の食べ方。麺を食べた後に、ご飯を注文すれば残ったスープを使って雑炊にすることができます。自分でそのまま土鍋にご飯を投入してもいいですが、雑炊もアツアツで食べたいもの。お店によっては、土鍋を下げてもう一度スープを沸騰させて雑炊に仕上げてくれるところもあります。
須崎名物『鍋焼きラーメン』プロジェクトX
元々は地元の人々の大衆食だった鍋焼きラーメンですが、須崎市の名物としてPRしていこうと考えた商工会議所や市役所の有志によって、2002年に「須崎名物『鍋焼きラーメン』プロジェクトX」が発足しました。このプロジェクトでは、鍋焼きラーメンに以下の7つの定義を定めました。
・スープは、親鳥の鶏ガラ醤油ベースであること
・麺は、細麺ストレートで少し硬めに提供されること
・具は、親鳥の肉・ねぎ・生卵・ちくわ(すまき)などであること
・器は、土鍋(ホーロー、鉄鍋)であること
・スープが沸騰した状態で提供されること
・たくわん(古漬けで酸味のあるものがベスト)が提供されること
・全てに「おもてなしの心」を込めること
これらの定義は、発祥店である「谷口食堂」が生み出した元祖鍋焼きラーメンが基になっていて、今では「橋本食堂」や「まゆみの店」といった有名店を中心に約40店ほどの飲食店で提供されています。