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お寿司なのにネタが魚じゃない? 郷土料理「田舎寿司」って知っていますか?

高知名物田舎寿司

雄大な太平洋に面した高知県へ行くのなら、やっぱりカツオをはじめとした海の幸を思う存分に味わいたいものですよね。

「焼き魚や刺身もいいけれど、やっぱり採れたてピチピチの新鮮な魚をネタにしたお寿司が食べたい!」

と、思われた方。ちょっと待ってください。

確かに高知の魚は新鮮そのものですし、どこのお店で食べるお寿司も絶品です。しかし私たち高知県民としましては、どうしても県外の方々に一度味わってほしい料理があるのです。

それが、昔から親しまれている“魚をネタ”にしない『田舎寿司』という郷土料理です。「魚がネタじゃないのにお寿司と呼べるの?」「魚のお寿司が食べたい!」

なんて反論を受けてしまいそうですが、高知県の『田舎寿司』には、魚のお寿司に負けず劣らずの魅力がたくさんあります。

今回は、地元で愛され続ける高知県の郷土料理『田舎寿司』をご紹介します。

田舎寿司のネタになるのは主に山の幸

田舎寿司のネタになるのは主に山の幸

まずは気になるネタからご紹介。

『田舎寿司』のネタになるのは、地元で採れる山菜が中心。たけのこやしいたけ、ミョウガやこんにゃく、りゅうきゅう(ハスイモ)と呼ばれる、里芋の仲間で高知の郷土野菜など、素朴でヘルシーな食材を使うのが特徴です。

このような食材の名前を聞くと、多くの方が酢飯に具材を混ぜ込んだ五目寿司をイメージされます。

ですが、高知の『田舎寿司』は通常の魚のお寿司と同じように食材を寿司飯に乗せた非常に珍しい見た目をしています。

魚を使わないことで見た目はカラフルになり、初めて見る人はその見た目に驚くことでしょう。

旬の「山の幸」を使った田舎寿司ですが、一体どのようにして誕生したのでしょうか?次は、田舎寿司の誕生についてご説明します。

高知県の山間部で誕生した田舎寿司

高知県の山間部で誕生した田舎寿司

さて、田舎寿司の主なネタが地元で採れた山菜なのですから「田舎寿司」が生まれたのは、もちろん山間部の地域です。

現在ほど、交通網が整備されていなかったその昔。海の幸が豊富に採れる高知県であっても、鮮度が命の魚を山間部の人々の元にまで届けるのは難しく、生魚を乗せたお寿司はなかなか手の届かない料理だったといいます。

どうしてもお寿司を食べたい。そこで考え出されたのが、地域で採れる山菜を活かしたオリジナルのお寿司。

こうして誕生した“魚の乗ったお寿司”に変わる、“山菜の乗ったお寿司”は、やがて宴会やお祝い事で振舞われる「ご馳走」として山間部の人々の間に広まっていきました。

寿司飯に使われるのは高知県の名産品である“アレ”

寿司飯に使われるのは高知県の名産品である“アレ”。

食材は、甘酢につけたり醤油や砂糖で甘辛く煮付けたりと、様々な方法で味付け。もう一つの主役である寿司飯には一般的な寿司飯のようにお酢を使うことはあまりなく、高知県の郷土料理らしく柚子酢が使われます。

お酢を使った寿司飯のようにクセが強くなくサッパリとした味わいと爽やかな香りが伝わるほか、ネタである山菜の味わい深さをより引き立てます。

海ばかりがクローズアップされがちな高知県ですが、実は山地率が89%にも及ぶほどの「山の国」でもあります。

お寿司のネタに魚ではなく山菜を使う「田舎寿司」を味わうたびに、高知県が海の幸だけではなく山の幸の宝庫でもあることを改めて実感させられます。

知名度向上のきっかけは、とある全国コンクールでの入選

知名度向上のきっかけは、とある全国コンクールでの入選

それまでは山間部の地域で親しまれる、よくある郷土料理のひとつだった“山菜の乗ったお寿司”でしたが、都市部を中心に広く知れ渡るきっかけとなる出来事がありました。

それが、1986年の「全国ふるさとおにぎり百選」への出品です。

県中西部に位置する津野町葉山の主婦たちによって、「田舎寿司」と名付けられ出品された山菜のお寿司は、この全国コンクールで見事に入選

見た人を惹きつける独特の形をしたお寿司は、たちまち話題となり、以降、「田舎寿司」は高知県の名産品のひとつに数えられるようになりました。

多くの場所で味わえるようになった田舎寿司

多くの場所で味わえるようになった田舎寿司

高知県民にとって、すっかりおなじみの県民食となり、子供からお年寄りまで幅広い年代の人々に愛されるようになった田舎寿司。

今では、スーパーや道の駅などで気軽に購入できるようになっています。特に高知市内の中心地で毎週日曜日に開催される「日曜市」は、様々な食材を使用した数多くの「田舎寿司」が並ぶメッカとして知られています。

また、お店で販売されるものを購入して食べるだけではなく、食材や味付けに趣向を凝らしたオリジナルの「田舎寿司」を手作りしている家庭も増えています。

現代らしい新たな楽しみ方も

現代らしい新たな楽しみ方も

最近では、それぞれの食材が持つ豊かな色合いが並んでいることから、若い人たちを中心に「インスタ映え」するなんて話題になることもしばしば。

私たち地元民からすると、少し地味な印象かな…と思っていた「田舎寿司」が、若い世代の人たちから注目を浴びることになるなんて今までは想像もできなかったことでした。

昔の人々の知恵とアイデアが生んだ「田舎寿司」。見た目にも楽しく、味わい豊かな郷土料理を是非一度食べてみてください。